やっと御幸橋まできたのに 足の力が抜けて
とうふみたいに ぐにゃっと 体が 崩れ落ちてしまった
とたんに 焼け爛れた 屍骸の群れが 目線と交わる
立とうとしたら
目の前の屍骸の一つが ふらふらっと 起き上がってきた
飛び出た眼球で そいつは 口をきいた
「そこの人 爆弾にやられて目が見えんのんです
すみませんが 道路の 向こう側が ぼくの家です
すぐ そこですから つれて帰ってください」
家など無い 道など無い
あるのは 瓦礫と屍骸の山だけだ
こいつは 何も解っていない
自分ひとりが やられたと 思っている
自分の ずる剥けになった体さえ 認識していない
時間の経過も知らないでいる
ピカが落ちてから もう 4日も経っているんだ
ちくしょう 立ち上がれない
もう ひとごとではない
気持ちまで とうふみたいになってしまっている
ああ やはり あいつは また 崩れ落ちてしまった
大地の上を 陽炎が 霊魂のように 這っている
ちくしょう 美佐子は どこにいるんだ
妹を 田舎の両親に会わせるまでは
俺は 死ぬわけにはいかないのだ
何もかもが この大地の上にあるとしても
この大地を無くしたやつには 何が残っているというのだ
ちくしょう 美佐子
美佐子 死ぬなよ
俺は 死ねない 決して死なない
少しの間 ここで
この大地の上で 眠るだけだ
佐 々 木 太 (ささきふとし) の 詩 [メ ニ ュ ー] |
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