ハンドルを右に切ったまま、アクセルは踏みっぱなしだ。見えない、何も見えてこない。いつ
まで経っても出口が見えない。ひょとするとこのトンネルは螺旋構造になっていて、どこまでも
続いているのかもしれない。
出口。莫迦な思い過ごしをしたものだ。なんだ?救急車か。凄まじい轟音だ。あれは?。ブレ
ーキ!!。ブレーキだ。
今度は長蛇の列か。動かない。動けない。まるで金縛りだ。
止まってしまえば高速道路もただの山頂だ。鬱蒼とした樹々の幻を縫って、街の灯がダイヤモ
ンドダストのようにふるえている。病院の灯?。リルケの病院だ。例の匂いがきこえてくる。嘗
てマルテが訪ねた病院??。そんなはずはない。違う。絶対違う。俺が行かなければならないの
は、あの病院ではない。
過去も未来もズームしてはいけない。今のままの大きさでいい。夢の中でも現実を見失っては
ならない。街の灯はそれでいい。ただの星屑のままで。