少年は一度だけ空を飛んだことがある
棚田の畦から飛び上がった 背中に風呂敷を靡かせてだ
その後いつだったか 月光仮面が落とした入歯を拾ったという人に出会った
黄色いマフラーで首を吊ったという幻探偵の噂も聞いた
それからはロボット型の不死身のヒーローたちが次々に現われ 正義を守ってきた
まるで彼等の行動には血も涙もあるかのようだった
だが世界が平和になったとかいう噂は未だ聞かない
血とは何か涙とは何か正義とは何か精神とは何か
そんなことより少年は空をもう一度飛びたかった
念じれば飛べるきっと飛べる それが少年の信念だ
少年は念じた念じた念じ続けた
少年は念じて念じて念じるたびに年取っていった
老いて老いて老いさらばえた少年は
今もなお
念じて念じて念じて念じて念じ続けている
あの れんげ草に覆われた 段々畑をもう一度眺めたいと
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