バックミラーの女

 

 

 

バックミラーの女が微笑む時間だ

俺はそそくさと車に乗る

対向車のライトを受けて 眩しそうにすると

女はいつものように

一輪のバラを吹いて 

赤い花びらを シャボン玉のように飛ばせ

せせら笑っている

この車に女が住むようになって久しい

だが 未だ 俺は名前も知らないでいる

もともと中古車だ

乗りつぶすばかりになっている こんな車に未練は無いが

なぜだか この女と別れる気にはなれない

どこかで会ったような気もするが定かでない

ふと思う

昔どこかで 誰かが この車で女を轢き殺した

そして その時 女の魂がバックミラーに住み着いた

安っぽい怪談だ

女の思っていることが具に解ることがある

そこで武器を取るのよ

何べん言ったらわかるの ちっとも先に進まないじゃない

その検問は突破するしかないのよ

叱咤する声が聞こえる

女の一部にされたかのような奇妙な現実に閉じ込められる

機械的統制に緊縛される官能的な歓びに恍惚する

そうよ そこでジャンプするの

そう クリアしたわ もう大丈夫よ

車を止めて 俺は

紅い花飾りのある 草色の帽子を買ってきてやることにした

この女に似つかわしくないことは知っているのだが

 

 

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