● 新しい成年後見制度 ●
「成年後見ひろしま研究会」が座談会

 

 制度の創設とその社会的背景

座談会参加者

佐藤 我が国の急激な少子高齢化に伴い、判断能力の衰えた独居老人が増加し、各種悪徳商法のエサとなったり、財産管理が困難になるとか、身上監護を受ける手続きが満足にできないといった問題が生じてきました。
 しかし、従来の法律では、これに十分な対応をすることが困難でした。何分、民法が制定された明治31年頃の日本人の平均寿命は約44歳でしたので、歳をとってボケた場合の対策などは考慮のラチ外であったからです。
 そこで、諸外国の立法例なども参考にして、民法が大幅に改正され、また任意後見契約に関する法律が制定され、平成12年4月から施行され今日に至っています。
 しかし、この制度はあまり周知されていないと思われますので、この制度についての研鑚を積まれ、また現に任意後見人や任意後見監督人として活躍されている方々にお集まりいただき、制度の紹介をして戴くことにしました。
 なお、成年後見制度には、判断能力が衰えてから裁判所に後見人等の選任を申し立てる「法定後見制度」と、正常な判断能力者が予め能力の衰えた場合に備えて後見人候補者を選定しておく「任意後見制度」がありますが、この座談会では後者を中心に話を進めていくこととします。
 中本さん、このような制度の創設された社会的背景をまとめて下さい。

【参加者】
 東広島公証人・佐藤 勇(司 会)
 社会保険労務士・中本 幸雄(呉 市)
 CFP・松尾 由美(福山市)
 行政書士・加藤 修(東広島市)
 行政書士・倉重 義助(東広島市)
 社会保険労務士・佐藤 健次(安浦町)
 CFP・磯崎 紀夫(広島市)
 行政書士・行則 俊一(福山市)
 行政書士・三村 明(庄原市)
 順不同

中本 核家族化が進み「一人暮らしの高齢者」が増えており、65歳以上の高齢者の一人暮らしはここ10年で2倍になり女性を中心に急速に増えています。このような高齢者が何らかの形で判断能力が衰え、日常生活の保護や財産管理の保全が必要になったときに、高齢者が安心して生きていけるようサポートする制度が成年後見制度なのです。

佐藤 わが国の立法のお手本となった欧米諸国における成年後見法の立法の状況について、松尾さんから紹介してもらいましょう。

松尾 立法の年代順に紹介します。
 フランスは、世界的に最も早く高齢化社会を迎えた国でして、1968年に民法改正により成年後見制度を確立しています。
 1985年にはイギリスで「持続的代理権授与法」が制定されましたが、これは任意後見の典型的立法例としてわが国における立法の際に参考となったそうです。
 1990年にはドイツで自己決定権の尊重等の諸原則に立った「成年者世話法」が制定されました。
 カナダにおける成年後見法は、各州によって異なりますが、例えばオンタリオ州では1992年に「代行決定法」を成立させましたが、これは成年後見制度の理念を忠実に表現した法律として世界的にも高く評価されています。
 アメリカでは、連邦議会が制定した「統一後見手続法」もありますが、各州でも独自の成年後見
法を持ち、別々に運用されているようです。
 

★ 任意後見契約の締結

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐藤 それでは加藤さん、任意後見制度について簡単に紹介してください。

加藤 任意後見制度とは、任意後見契約に関する法律の制定によって新たに設けられた制度で、本人がまだ判断能力を有している間に精神上の障害(痴呆・知的障害・精神障害等)により判断能力が不十分になった時のために、後見人になってもらいたい人と予め「任意後見契約」を公正証書によって締結しておき、そのような状況になった場合には任意後見人に代理してもらうことができる制度で、家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督の下で任意後見人による保護を受けることができます。

佐藤 任意後見契約が締結されますと、公証人が東京法務局にその登記を嘱託することになりますが、過去2年の登記件数は、倉重さん全国でどのくらいですか。

倉重 最高裁判所の統計によれば、契約締結の登記は、平成12年度が801件、13年度が1101件となっていますが、新しい成年後見制度が社会的にも定着してきて、今後も伸びていくものと思われます。

佐藤 任意後見契約には3種類のパターンがありますが、その説明を倉重さんお願いします。

倉重 任意後見契約の利用形態としては、将来の判断能力低下の時点で任意後見契約の効力を発生させる「将来型」、任意後見契約の締結の直後に契約の効力を発生させる「即効型」、通常の任意代理の委任契約を経て任意後見契約に移行する「移行型」があります。
 「将来型」は本人が正常な判断能力を有する時点で、将来自己の判断能力が低下した時はじめて任意後見人による保護を受けようとする場合の契約形態です。
 「即効型」はすでに委任者(本人)の判断能力がある程度不十分な状況になった場合に、任意後見契約後ただちに本人または受任者の申し立てにより任意後見監督人を選任することにより、当初から任意後見人による保護を受けることが出来る契約形態です。
 「移行型」は契約締結時から受任者に財産管理等の事務を委託し、通常の任意代理の委任契約関係から、家庭裁判所の監督を伴う任意後見契約への円滑な移行を図ろうとする契約形態です。

佐藤 ところで任意後見契約において任意後見人を引き受ける人を「任意後見受任者」といいますが、どのような人が適格なのでしょうか。佐藤健次さんお願いします。

佐藤(健) 任意後見受任者は、個人でも法人でも、また複数の人でもなれます。さらに、任意後見受任者は、能力者たることを要しません。
 過去の実績からみますと、任意後見人(任意後見受任者)のほとんどは親族が選任されているようです。親族ですと本人と気心が知れており、契約内容も突っ込んで話し合うことができる点や、任意後見人の報酬面でも考慮でき経済的な面などのメリットがあります。
 しかしながらその反面、親族である任意後見人が本人の希望する最も適切な後見事務を実行する能力や知識、経験等があるかは疑問です。さらに、親族であるだけに本人と利益相反関係に陥る懸念も十分考えられます。
 そのような点を考えますと、任意後見受任者としてはむしろ専門家に依頼した方が本人の為には適切な事務を遂行でき得るでしょうし、仮に親族が受任者になったとしても、その監督人には専門家がなり、親族の不十分な職務遂行能力をバックアップできる体制を整える必要があるものと考えます。

佐藤 任意後見契約を締結する場合、遺言も同時にする人が多いのですが、佐藤健次さんこの関連はどういうことでしょうか。

佐藤(健) 任意後見制度で本人の財産を本人の意思を尊重して老後に有効に使うことができますし、本人死亡後には遺言を利用することによって本人の意思を尊重した財産処分ができるわけです。
 特に生前、後見人として無報酬でお世話をしてくれた親族に対して、その労に報いるため、遺言を活用することも大切ではないでしょうか。
 また、さらに知的障害を持つ子の親にとっては、自分の意思能力低下後または死後、残された子の生活が心配でしょう。その場合、任意後見制度と遺言をうまく活用することで対処することができるものと考えます。

 

 成年後見制度への自治体の対応

【参加者】
東広島公証人・佐藤  勇(司  会)
社会保険労務士・中本 幸雄(呉  市)
C F P・松尾 由美(福山市)
行政書士・加藤  修(東広島市)
行 政 書 士・倉重 義助(東広島市)
社会保険労務士・佐藤 健次(安浦町)
C F P・磯崎 紀夫(広島市)
行政書士・行則 俊一(福山市)
行政書士・三村  明(庄原市)

佐藤 任意後見監督人の職務について、経験者である倉重さんに伺いましょう。

倉重 任意後見人がその事務につき、適正にその権限を行使しているかどうかを監督し、家庭裁判所に定期的に報告すること、及び任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときには、家庭裁判所に後見人の解任を請求すること等です。

佐藤 中本さん。任意後見契約が終了するのは、どのような場合ですか。

中本 任意後見契約は、1:家庭裁判所による任意後見人の解任、2:任意後見契約の解除、3:家庭裁判所による法定後見の開始、4:本人又は任意後見人の死亡・破産、5:任意後見人の後見開始決定、により終了いたしますが、任意後見監督人選任後の契約解除については一定の要件が必要です。

佐藤 成年後見制度については、自治体等も積極的に関与又は支援すべきとされていますが、佐藤健次さん、県下の自治体や社会福祉協議会はどのような対応をしていますか。

佐藤(健) まず、自治体の対応ですが、確認した自治体は、福山市、呉市、三原市、廿日市市、三次市です。全体的には、法律ができてまだ間が無いせいか、ようやく体制作りにスタートしたという印象です。
 現在、法定後見制度のニーズが出たら、弁護士や司法書士などに依頼して対応している自治体が多く、市町村長が申立人になった事例は廿日市市や呉市など数例にとどまります。
 また、厚生労働省の「成年後見制度利用支援事業」で、介護保険利用者が一定の条件を満たせば後見費用等の援助を受けられる制度がありますが、それをすでに予算化したところや、来年度より予算化する自治体もあり、今後いかにPRするかが課題のようです。
 社会福祉協議会の対応として、県社協では定期的に説明会・相談会等を行っており、司法書士会の「リーガルサポート」や弁護士会の「あんしん」などと連携して対応しているようです。しかしながら、地域的にもばらつきがあり、十分な対応ができていない状況なので、ぜひ「成年後見ひろしま」とも連携してこの制度を充実したものにしたいということです。
 他の基幹社協は、地域によって温度差があるものの、おおむね後見事務を必要とする案件が発生したら、弁護士や司法書士等の専門家に依頼することで対応しているようです。今後は、後見手続きや療養看護、財産管理等の事務にとどまらず、資産運用や税務、社会保険等幅広い生活全般の支援ができる専門家で構成する団体が、スピーディーに対応してくれることを大いに望んでいるとのことでした。

佐藤 三村さん、備北地域などではどのような取組みがなされているのでしょうか。

三村 三次市を初めとする備北の各市町村は高齢化が特に進んでおり、福祉の現場で後見制度を検討する場面も増えてきているようです。ただ既に事理弁識能力が不十分となった方の法定後見の事例ばかりで、事前に任意後見制度を検討する場面は行政では把握していないようです。法定後見も司法書士を紹介されたり、福祉施設と連絡をとるレベルまでで、市町村長が申立人となった事例は無いようです。
 現場の意見として、専門家の支援が増えることはありがたい、特に後見は生活の全ての支援をしなければならないので、裁判所への書類の提出のみではなく日常の契約の支援や、税務、社会保険、資産運用などの専門家が集まって後見支援団体ができるのであれば歓迎するとおっしゃっておられました。

佐藤 ご出席の皆さんが中心になって、NPO成年後見ひろしまの立ち上げを進めておられると聞いていますが、これについて加藤さん紹介してください。

加藤 新成年後見制度を実効あるものとするため、「成年後見ひろしま」は、平成一二年十一月より、県内各地から各専門家が結集し、東広島市民文化センターにおいて毎月1回(3時間)実務に関する研修会を開催いたしてまいりましたが、この度、NPO(特定非営利活動法人)として実務を遂行していくよう広島県に対し手続きを進めております。「成年後見ひろしま」は、従来にましてより多くの、判断能力の不十分な方々(痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者等)が安心して、様々な状況に応じて、柔軟且つ弾力的なご利用ができることとなることを確信いたしております。

佐藤 皆さん長時間有難うございました。
 読者の方で任意後見制度についての相談は、各地区の発言者にされることをお薦めします。
 


  http://www.pressnet.co.jp/back.htmより

                              2003年1月28日号〜2月8日・プレスネットより

 

        NPO法人成年後見ひろしま」として現在、広島県に申請中です。

なお、ホームページは現在作成中です。

 

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