第2回粉ころ菓詩大賞選考対象詩 |
散文詩 - 田中暁光庵
華は散りて嘔吐する
華は散り葉となりて
季節はめぐる
愛は別離にて
人生を駆け抜ける
ただ一日一日大切に
思いのままに生きてきた
昨日は忘却し
明日の日はおぼろ
今の一瞬のみが命
わたしは無言で髪を切る
惨薔薇髪が鏡に写る
わたしは無言で言葉を綴る
部屋の中に原稿用紙が乱れ飛ぶ
所詮は詩 されど詩
乱れた原稿用紙に字を綴る
わたしは白い用紙に
嘔吐する
ど〜にもらない - 田中暁光庵
何と言っても、今日は日曜日だ
別に平日と変わらない曜日だ
昨夜の酒がまだ胃の府でうめいていやがる
掻き毟りたいほど気を逆撫でしやがる
俺を梱包している肉体はぷよぷよふやけ
内包している精神は同じに毅然とふやけてる
気分を変えよう
俺は精神病院で処方して貰っている
ハルシオン(睡眠剤)を
7錠呑んだ
そうだ、押し入れに隠しておいた角瓶
ごぼっとらっぱ呑み
全く悲しく成るほど気分が良くならない
むしろ逆に陰隠滅滅気がめいる
こんな時にゃ「糞ころ」にでも
「詩」らしきものでも送りつけてやろう
導火線式じゃなくタイマーを内蔵させて。。。っと
PS:ビールスいりまへんか?廉価販売!
若草の芽が萌えるやうに、この日當りのよい芝生の上では、思想が後から後からと成長し てくる。けれどもそれらの思想は、私にまで何の交渉があらうぞ。私
はただ青空を眺めて居たい。あの蒼天の夢の中に溶けてしまふやうな、さういふ思想の幻想だけを育くみたいのだ。私自身の情緒の影で、なつかしい緑陰の夢を つくるやうな、それらの「情調ある思想」だけを語りたいのだ。空飛ぶ小鳥よ。
気になる笑顔 - 岡田澄人
忘れ物をとりに戻ると
わたし ここやめさせてもらうことになりました
妙に 明るく言う
どうも お世話になりました 今後ともよろしくお願いします
はあ こちらこそ
セミが 今朝と同じカッコウで 地面にひっくりかえっている
そういえば 今朝 明るく おはようございますって声かけたのも 彼女の方だった
今後ともってどういう意味だ いったいいつどこでまた会うっていうんだ
俺はまだ 彼女の顔と名前が一致しない
美人でなくはないかもしれないが 最近 そんなことさえどうでもよくなってきている
どこかで会ったって もう忘れているかもしれない
やけに明るい 屈託のない笑顔だった
聞いてやればよかったのかも
結婚するんですか
いや まだ目立たないが おめでただったのかも
それとも 自分の悲願の職にでも就くことになったのか
それにしても このペットボトルとりに戻ってよかった
彼女の最後の仕事が このお茶のボトルを捨てることだったとしたら
あまりにも気の毒だ
駅舎の上を筋雲が透明に流れていく
ああ
凍てる風にて、醒めるや
烈火にて、燃え尽きるや
水 急きにて、 流れるや
”否 ”
青葉、目に染みるや
高き空、仰ぎ見るや
白夜たるも、心動かず
若葉たるも、心踊らん。
”ああ ”
総ては 君が故に。
宮沢賢治は凄いんだって?
何が凄いんだい?
彼の生き方かい?
それとも、彼の詩かい?
童話かい?
信仰かい?
その全部を合わせたものかい?
だったら
どれかを差っ引いたら
たいしたことはないのかい?
それとも
どれかひとつでも
それぞれみんな 凄いのかい?
凄いって どんなんだい?
どんなのが 凄いんだい?
凄いって言われて
賢治は喜んでるのかい?
怒っているのかい?
それとも
いつも静かに笑っているのかい?
訳もわからずに凄いって言ってるおれたちを見て
一年ばかりの間、いや一と月でも
一週間でも、三日でもいい。
神よ、もしあるなら、ああ、神よ、
私の願ひはこれだけだ。どうか、
身体(からだ)をどこか少しこはしてくれ痛くても
関(かま)はない、どうか病気さしてくれ!
ああ! どうか……
真白な、柔(やは)らかな、そして
身体がフウワリと何処までも――
安心の谷の底までも沈んでゆく様な布団(ふとん)の上に、いや
養老院の古畳の上でもいい、
何も考へずに(そのまま死んでも
惜しくはない)ゆっくりと寝てみたい!
手足を誰か来て盗んで行っても
知らずにゐる程ゆっくり寝てみたい!
どうだらう! その気持は! ああ。
想像するだけでも眠くなるやうだ! 今著(き)てゐる
この著物を――重い、重いこの責任の著物を
脱ぎ棄(す)てて了(しま)ったら(ああ、うっとりする!)
私のこの身体が水素のやうに
ふうわりと軽くなって、
高い高い大空へ飛んでゆくかも知れない――「雲雀(ひばり)だ」
下ではみんながさう言ふかも知れない! ああ!
―――――――――――――――
死だ! 死だ! 私の願ひはこれ
たった一つだ! ああ!
あ、あ、ほんとに殺すのか? 待ってくれ、
ありがたい神様、あ、ちょっと!
ほんの少し、パンを買ふだけだ、五―五―五―銭でもいい!
殺すくらゐのお慈悲(じひ)があるなら!
自堕落糞 投稿者:田中暁光庵
男は引っ越しを機会に
引き篭もるようになった
部屋の四面に取り付けた時計
東西南北どちらを見ても
同じ時間を指している
とりあえず僅かばかりの金はある
だからライフラインはOKだ
部屋の真ん中に机を置いた
横に椅子を並べて座ってみる
雰囲気がかなり浮いている
部屋の面積を占める机と椅子
男は椅子に机を嫌っていた
不登校の遺物に興味はない
男はのらりくらり部屋に積載された
ボール紙を剥してゆく
ビデオテープがガラガラと音を立て
崩れ行く
いつの間にやら集めたエロビデオ
どれを見ても男と女のからみは同じ
映像に男の視線を引きつける魅力がない
ぐるり部屋のなかを見回せても
もう引っ越しして幾月もたっている
梱包された荷物はそのままに
ゴミ箱にコンビニ弁当のゴミが溢れてる
男は自分がなにをしたいのか
何をしなければいけないにか
男の意識が分裂した
男は年齢38才に成っていた
人生の分岐点だと思った
男はむっつりと黙り込む癖があった
妻がそんな男に怖いと言った
別れようか男は軽い調子で妻に言った
そうね
妻が同調した
3才になる男の幼子は
妻が親権を取った
そして
2人で集めた家具や電化製品を
数名の職人が来て引き取っていった
離婚届の緑の用紙にも
なんの躊躇いもなく印を押した
和歌連詩 投稿者:田中暁光庵
呼び覚ます 夜のしじまに 救急車
サイレン音が眠りを覚ます
闇の中 耳を澄まして 思索する
死にゆく人に 思いを馳せる
死を迎え 霊魂になる 魂は
寿命を持ち 運命に果つ
肉と骨 土くれと還りゆく
鏡割り 投稿者:岡田澄人
信念もなく
信仰もなく
信頼されることもなく
死んじゃいたくなる
振動 不整脈
ちくしょう
おれじゃないんだ
心筋梗塞
病にもなれず
胃痙攣の波動は
歪んだ顔を真顔になおして
ああ
めでたい
めでたい
めでたいな
ぽっかり割られた樽の声
覗けばたゆたう美酒
はっぴ姿の醜い笑顔
これが おれの これが おれの
これが おれの おれの おれの
おれの おれの
おのれ
@
人は無口に俯きながらも眺め見た
壁面に張りつけられた歪んだ顔
おののく表情が叫び声を出している
金儲け主義の権威者が美術館を汚しているのだ
壁面を浮き立つようにスッポト・ライトは静寂
ホロコーストに引き立てられる畜生どもの
静かで厳粛でそして絶望的な行列のように
「叫び」に目をみやる
流転の中でムンクは「叫び」の中で嗚咽する
画家はなにも歴史や観客の為に絵を書かない
惨い歪んだ自画像がキャンパスの上で叫びを上げた
A
人生は倖せよりも辛い事の方が多い
無差別に矩体を傷つけたり
命を奪い取ったり
人々は皮膚の色や宗教
イデオロギィーの相違によって
殺人を正統なものとしてきたのだ
20世紀の哀しみは
21世紀の汚物になった
厳粛に「叫び」は美術館の
壁面に取り付き
回廊してくる人々に眼差しを向ける
うわっつらな平和 足もとの漂泊さ
「叫び」は醜く それら畜生達に
斜視をなげる
B
人生は辛い方が倖なのだろう
絶望で引き回される畜生達は
瞳孔を広げた人生に無気力な
とろけ落ちる炎を垣間見る
ムンクの描く世界のなかで
リストカットをした人は無限に居る
そう死ぬのだ それが落魄した
畜生どもの生の終焉なのだ
C
叫びに希望なぞない
どこを垣間見ても絶望へ続く道だ
私たちもほんとは狂ってしまいたいのだ
狂気の中で炎によって死にたいのだ
「叫び」の前に迂回してくる人々
心のなかの驚愕をひそめ
そっと 叫びを眺め視る
溶かすもの 投稿者:ぽげ
酒のせいで筋肉が溶けて
あまりの苦しみにうちのめされて
重病人のごとく床に伏せって
だけどしばらく時間をおけば
何事もなかったように
日々は過ぎる
若者に青い衝動があるのなら成熟した女に丸い欲望が
あってもいい、などと考えながらアルファを走らせていたら前のアウディがスピードを上げたのですかさず後ろにぴったりつける。夕方はどうもいけない。行き 場を失った焦操感が空腹の隙間に黒い雲を形作って抑えがきかない。赤く変わった信号を目の端にとらえると同時にアクセルを踏みこみ、バックミラーでバト
カーがいないかチェックする。小心者め、順序が逆だ。獲物は対抗車のないゆるいカーブを40キロオーバーで海岸通りへと曲がっていった。窓をあけると通り すぎようとする夏のむっとする熱と湿気を含んだ風が充満してきた。いつのまにか、行き止まりの岸壁に来ていた。夕焼けを通り越してゆっくりとたそがれてゆ
く透明に青い空と海の溶け合う線の中から黄色く丸く光る月がするすると昇っていく。引力を伴って潮をあやつる満月。そしてわたしの丸い欲望。それは昼間の 顔と夜の顔の間に一瞬姿を見せるだけだ。この月と同じように。帰り道信号待ちしていたプジョー406の黄色いボ ディがやけにぴかぴかと光っていた。
『プロフィール』 投稿者:たれ
紫式部の髪をベリーショートに
ルノアールの描く女の顔にすげかえて
もうちょっと肌を黒くして
某バンドのツアーTシャツに
ジーンズをはいて キャップをかぶって
薄紫のフレームのメガネをかけて
一眼レフのカメラを持って
時々はギターを持って
普段は買い物袋を下げて
栗ご飯とか餃子とか
手間のかかる料理が大好きで
裁縫が死にそうなくらい苦手で
ぞうきん1枚縫うのに1時間
アイロンかけは楽しい
洗濯と掃除はまあまあ
整理整頓は下手だけど
きれいになるのを
見るのは好き
イメージできましたか
親近感わきましたか
それが わたし です
どこかで見かけたなら
声をかけてください
なかよくしてください
いつの日にか
お会いしましょう
その時を楽しみに
不真面目で誠実なメビウスの輪 投稿者:たま
不真面目だもので
もう片方の頬を出すなんて
危険な賭けは避けている
逃げ足だけは速い方がいい
冷めないほとぼりは
ニンフ達が取り囲む
冷たい湖の鱗で鎮めてくれる
それまでの間 逃げるだけ
謝るのならそのあとで
誠実だもので
旅をしたら必ず家に帰ってる
日帰りかもしれないし長旅かもしれないけど
帰ってくるのだから
何かを棄ててきたわけじゃない
お世辞は言わせるだけにして
白鳩の羽根より軽い軽いウソだけど
いたずらな小人が雪だるまの核にする
雪だるま爆弾
標的は罪の無いウソツキ
不真面目で誠実
不真面目な上に誠実
矛盾はメビウスの輪でつなげて
マイスィート 投稿者:ぽげ
酔ってたってベイベー
ストレートに本音なんて言えるわけないじゃん
酔ってたってマイスィート
言葉なんて嘘ばかりさ
だけどハニー
心なんてどこにあるのかな?
酔わなくてもベイベー
ストレートに喉が焼けて
酔わなくてもマイスィート
心なんて誰も知らない