この言葉の叢から

 

 

 

あら なに 

まあ これ みんな私宛の手紙 こんな大きな箱の中に

母ね いえ 父親の仕業かしら

こんなに黄ばんじゃって ぼろぼろ

一通も封が切られていないわ

倉庫の中 風雪に耐えてきた封書たちなのね

この人 ノモンハンで死んじゃったのよね

この人は インパール

この人誰かしら 

知らない人だわ いえ 忘れちゃったのかしら

私 やっぱり もててたのよね そんな気がしてたの

まあ 節夫さんまで      知らなかったわ

知ってたら 美智子を 長男のお嫁にやったりするんじゃなかったわ

不潔ね あの子が私に一番似てるのよ

あら あなたもくれてたの 遺言も書いてくれてなかったくせに

私には 一言も言わなかったわね

当然読んだものと思ってたのかしら

それとも 私に届いていないこと知ってたのかしら

結局 駆落ちで一件落着だったわね

幸せだったのか そうでなかったのか あなたと私


封を切ったら

一通一通の手紙が 私を襲ってきそうな気がして

そうだったら そのとき 私は 孫の雅子くらいに若返っちゃうのかしらねえ


やっぱり このまま封は切らないで 燃しちゃいましょう

いまさら 逆うらしまなんかになったて 

                                                  しょうがない    かしら ねえ

 

 

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