睡眠志向症

 

 

諸君は覚醒することの真の怖さを知らないのじゃ

1kmも先を歩いている人の顔の輪郭が見えることは恐怖では無いかも知れない

じゃが、その顔はみんなこの拙僧を嘲弄する心の顔なんじゃぞ

囁きがはっきりと聞こえてくる

誹笑の声に拙僧の心臓はナイフでえぐられる思いじゃ

あの怖さを知らないんじゃ

諸君はいったい今までに禅を組んだことがあるのじゃろうか

空の境地とは何か知っているのだろうか

空とは無のことだと答えるのは容易い

そうじゃ空とは無であり 無とは全のことじゃ

抽象論はやめよう

つまり見えることだ 聞こえることだ 真に覚醒することなんじゃ

じゃが それだけでは足りない それに堪えること

いや それに堪えることも無く堪えていられることなんじゃ

かんかん坊主 くそ坊主 ・・・ 嘲弄 誹笑

拙僧はそれにさえ堪えることができなかったのじゃ

拙僧は東京ドームに入ると一度見渡しただけで
観客数を正確に勘定することができる

問われれば男女別にでも大人と子供をわけて計算することもできる

身近なことなら明日起きることまでだいたい予見できるようにもなった

じゃが せいぜいそれが拙僧の限界だ

それ以上の修行は怖くて出来なくなったのじゃ

<人は修行すれば真に覚醒できる>

その確信を得たときの恐怖は諸君に話しても解らないだろう

真に覚醒するとは如何なることか

一言でいうなら それは生きながらにして人間を止めるということなのじゃ

それが 無であり空の境地に達するということなのじゃ

諸君はせっかく人間に生まれてきたのじゃ 

そんなばちあたりな生き方をしてはいけない

喜怒哀楽をもって活き活きとして生きるべきじゃ

拙僧のように中途半端に修行してきたものには

それさえすぐには出来ない

拙僧には究極の休憩 つまり 睡眠が必要なのじゃ

ちょうどよい

この道場は座禅など組むのにはもったいないくらい広くできておる

座布など片付けて 布団を敷いてみんなで寝ようではないか

やめとけ やめとけ 座禅など

悪いことは言わない

この道に入るのはやめたまえ

もうそれ以上は言うまい

静に横になって現世の夢を味わおうではないか

 

 

TOP