知恵の輪電車

 

 

 

終電に滑込む

ドアが閉まる

安堵に満ちた蒼いスーツ

赤いネクタイが幸せそうに靡いている

つり革はどれも揺り篭のようだ

座席はどこもがらがら

なのに つり革だけには列が出来ている

コンプレックスに苛まれる

誰にでもできることが 俺にだけ出来ない

知恵の輪ができないのだ

俺は猿知恵さえ持っていないというのか

何故 俺一人が 孤独な顔をして

この座席に崩れ落ちなければならないのか

俺には 知恵がないのか

何故だ 

誰でもが持っているはずの知恵

それが 俺にだけは不足しているとでもいうのか

誰かが 人差し指一本で ちょいと

1mmほど軽く押してくれさえすれば

ほんのちょっと手助けしてくれさえすれば

俺にだって できないことではないような気もするのだが・・

蛍光灯 今にも息が切れそうな 細い光

この光さえ 俺には眩しすぎて

一人一人の顔を覗きこむことさえ出来ない

いや 怖いのだ

その安堵とある種の幸福感に満ちた顔を見て

嫉妬するに違いない自分自身に恐れをなしているのだ

この震えが その恐怖から来るのか

寒さから来るものなのか 落胆から来るものなのか

それとも 自分自身の不甲斐なさからくるものなのか解らない

だが やりきれぬ思いが 俺をさいなんでいることだけははっきりしている

窓の外からは 蒼い三日月が黒い雲と一緒になって

知恵の輪をつくって 俺をからかい始めた

俺には皆のような 知恵の輪がつくれない

知恵の輪がくぐれない

孤独 コンプレックスが俺に追い討ちをかける

もう 目を背けてばかりはいられない

みんな幸せそうに 目をとじている

よくも あの細いつり革の輪に 首を通すことができたものだ

幸せそうに みんな ぐったりと 微笑んでいる

会社 家庭 その他の全てのしがらみから 解放されて・・

ブレーキの音がする 減速しているのが解る

もうすぐ 終着駅だ

 

 

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