恋とは何か

恋とは葛藤である

情欲と発心の葛藤である


男の情欲の対象は肉体である

美貌に翻弄されその声に歓喜する

刷り込まれた匂いに戸惑いながらもその肌触りに酔いしれる 

女のもつ理性も慈母性も男はすべて肉体に還元して憚らない

その情欲は活字にさえ喚起を促させるのだ 

女の肉体に纏わるあらゆる情念

それが情欲の正体である

女の体を ありとあらゆる夢をぶちこむことができる宝箱にすること

そして その全てを自分のものにすること

それが男の情欲である


女の情欲の対象は虚栄である

財産 職業 社会的身分 門地  

才能 名誉 学歴 将来性 

それから肉体 

だが 女の情欲する肉体は男それ自体ではない

男から抽出された虚栄のエッセンスである

女は無意識の中に巧みに迷彩されたそれに悪びれる事もなく従う

女は自らの肉体さえも虚栄のためには惜しまない

否 惜しむことなどできないのだ

そういった性癖こそが

全てを即物化し自らに従属せしめようとする

願望の実現を可能にするのだ

それが女の情欲の正体である

女が男に優しさを求めるのは虚栄の構築と保持のために他ならない

男は女無しでは自慰一つ出来ない

だが女は男無しでも悶えることができる

無機質な即物にさえ反応することができるのだ

女は雪玉を転がすようにして己の身を即物により増殖する

それが女の情欲に違いない

女は即物を餌食にして蛇のように身をくねらせるのだ


だが 恋する男女は

情欲に咽ぶ自らを恥じ煩悶しないではいられない

情欲の内部から風船のように膨らんで胸部を圧迫するもの

それが発心だ

発心は平和 安穏 永遠を望む

利己 闘争 嫉妬を忌み嫌う 

それは既に愛である

普遍性を有する愛である

父母、兄弟姉妹あるいは友人に抱くのと同じ類の愛の精粋である

奪うことではなく 只管 無償で与えることのみに専念する

相手の持つ汚れの中に身を投じ自らの全てをくれてやることを欲する

男も女も心の奥ではそんな自らを希求しているのだ

本当はそれのみを懇願しているのかもしれない


情欲は獅子舞のように髪を振り乱しながら

発心の急所に喰らいつこうとする

発心は闘牛士のように赤いマントを翻す


恋する男女には

先ず 自らの葛藤に緊縛される運命が待っているのだ

 

 

TOP