お雪

 

 

 

暗い。静かだ。何も聞こえない。ああ、思い出せない。おれは一体誰なんだ。何なんだ、この

感触は。感触といっても何もない感触・・感触とさえ言えないこの感触は一体何なんだ。おれは

やたら自由だ。この物音一つしない、唯むやみに広いこの闇の空間をおれは、自由に徘徊し、手

を振り回し宙返りをする。ほおら、ここでは飛ぶ事だってできる。だが、風の感触一つ得られな

い。飛んでいるのが、本当に空なのかどうかも解らない。いや、それどころか飛んでいるのが本

当におれの体なのか。一体、おれには身体が在るのかどうかも解らない。だが、おれは自由だ。

何も障害はない。唯、おれには感覚がない。あるのは意識だけだ。寒くも無ければ暑くもない。

闇と静寂に閉ざされたこの世界におれはいつからここにいるのか。もしかしたら、おれは死んで

いるのか?。もしそうなら、嘗ておれは生きていたことになるのだが・・。思い出せない。何も。

せめて名前くらい・・。

・ ・・ほほほほ・・・教えてあげましょう。聞こえる?私の声。思い出した?あなた。

 

 

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