平均台のような細道をよろよろと歩いていく。曲がりくねってどこまでも続いている。ふと足
元を見ると、薄氷のような三日月が水面に震えている。すくい上げようとするが、躰がボギボギ
音をたてるだけで手が届かない。寒さの為か、老いのせいか、こんなにも硬く不自由な躰・・・
こんなものが本当に自分のものといえるだろうか。しゃがみ込んで手を伸ばすが、やはり届かな
い。ハハハ、影ではないか。急に笑いがこみ上げてくる・・・何だか助けを求められているよう
な気がして、手を伸ばしたが、唯の月影ではないか。本当の月は・・・。おや。空に月が無い。
あるのはミルキーウェー。星々が東の方から順番に瞬きながら、なにやら形を整えているように
見える。龍だと解った瞬間、そいつは眼から紺碧の光を発射しながら、鋭角に突っ込んできた。
眩しさと恐ろしさのあまり、僕は眼を覆って俯いていた。それがどれくらいの時間だったのか定
かではないが、眼をあけた時には、水面から三日月が消えていた。恐る恐る空を見上げると、龍
の形をしたミルキーウェーが、玉になった満月を 、それは大事そうに抱えているではないか。
満月の中に何かが蠢いているのが見える。だが、僕にはもうそれを直視する勇気は無い。敢えて
眼鏡を外して、ただ、この細道を歩き続けることにした。どこかに辿り着くまで。