時計屋の唄

 

 

短針がいつもの箱を切裂くと

車窓を這いずりまわっている亡霊たちを

飛び出してきた長針が 

幾何学模様に斬りおとす

すると

秒針が狂ったように時間を闇雲に突き刺して

荷台に敲き落とすんだ

亡霊たちは砂利道のトランポリンで乱数表を弾いて

目隠しされたルームミラーを嘲笑う

左のバックミラーに

目だけぎょろぎょろさせた虚ろな顔が

もったいぶって引き攣ったオペラをはじめる

♪ 時計はいらんかえ 時計はいらんかえ 

  日に焼けて熱に干割った時間は

  あの蒼い海につけて洗うから ♪

♪ 時間はいらんかえ 時間はいらんかえ 

  日に見放されて湿った時計を

  きみの柔らかい嘘が創ってくれた温かい膚で乾かしておくれ ♪

♪ 時計はいらんかえ 時間はいらんかえ

  時間はいらんかえ 時計はいらんかえ ♪


右のバックミラーで陽炎が笛を吹いている

ぴーろろ ぴーろろ 笛を吹いている

 

 

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