待っていよう

 

 

 

駐車場が足りないのか

何台もの車が 小便をする 犬のようなかっこうで

左側の車輪だけを 歩道にのりあげて 主人を待っている

見上げる すると

ビルの先端を 掠めていく薄い雲が

建物を 大地ごと ゆっくりと 動かしているような 奇妙な感覚に襲われる

この巨大で堅固なビルも ピサの斜塔よりも 不安定な格好に見えてくる

切り絵のようなマンションの窓々には 小さな幸せが 灯っていて

中からは ピアノの音や 賑やかな 子供達の声が聞こえてくる

私は ここで じ〜っと 待っているのだが

どれくらいの間 一体 誰を待っているのか

何故 待たなければならないのか

とんと 思い出せなく なってしまっている

元々 記憶喪失症などに 罹らなければならないほどの

情報量を 私は 持ち合わせてはいないのだから 不思議だ

歩道に乗り上げて 並んでいる 空っぽの車のように

取敢えず 私も 空っぽのままで

誰かが 声をかけてくれるのを ここで 待っていることにしよう

 

 

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