黒い波

 

 

 

ぺたぺたと 足音がついてくる

私がとまると 足音もとまる

振り向くと サーっと叢に隠れる

暗くて 顔はよく解らないが 

なんとなく 子供のような気がする

何故 私についてくるのか

たまたま同じ方向に 家でもあると言うのか

もう こんな所まで 登ってきてしまった

秋の日は釣瓶落しとは よく言ったものだ

中途で電車を 降りるつもりなどなかったのだ

懐かしさに つい ふらふらと

トンネルか 月明かりもここまでだ

どうする

ひき返せるわけがない

抜ければ 瀬戸内海だ

あるのは あの懐かしい

蒼くて 日に煌いていた

若者のような 夏の海ではない

そんなことは解っている

ちくしょう 

だが この 天井から落ちる

たった一滴の 雫でさえ

無性に 懐かしいのは 何故だ

黒い波が むやみに揺れている

かまうものか 俺達は釣竿をかついで

この坂道を転げるようにして 駆けおりて行った

チヌ(黒鯛)は珍しく 釣れに釣れた

益々 海は荒れ狂っていった そして 岩場で・・

お前か!

あの時 俺をここへ連れて来たのも

お前だった

 

 

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