臨死体験

 

 

 

麦藁帽子を被った向日葵が一輪

水槽のような四角い寒空を 逃げ場を失った魚のように泳ぎ回っている

光に磔にされた影の足掻きに似た焦燥は

蚊柱に首を突っ込んだ犬のようにもがき

ガラスを爪で擦る音に似た悲鳴は

強風に翻弄される凧のように唸っている

麦藁帽子が 僕の前に ぽとりと落ちた

拾おうとすると

今度は 向日葵が 空から まっ逆さまに落ちてくる

危ない

思わず 受け止めた向日葵には ずっしりと重い肉感があった

なんだ おまえか

よかった 助かったのね わたし 臨死体験してたみたい

天国はどうだった 良かったかい

忘れちゃったけど 良かったに決まってるじゃない なにしろ臨死体験だもの

嘘つけ 苦しそうだったぞ

・・・苦しそう・・

・・・苦しいの? あなた お願い 目を開けて 子供達も 此処にいるのよ
でも なんで あなた 自殺なんて・・・

 

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