山姥
めらめらと燃えさかる秋の懐を
曲がりくねった細道が
一陣の風となって潜り抜ける
通りすがりの都会の匂いに
ススキが吼え ハゼの木が乱舞する
高く小さなまるい月が
群青色の雲を潜水して
白い雲を掻き分け掻き分け
流氷を割って進む船のように
あてどなく進んでゆく
茅葺きの小さな庵で
月の輪熊のように息を潜めているに違いない
山姥は
赤子の泣き声を隠すためか
乳の匂いを消すためか
樹々の竪琴を奏で
落ち葉にため息を吹きかけて
化粧を落とし
角を抜き 牙を外して
誰にも聞こえない小さな声で
いまも
子守歌を歌っている
2003.1.23